この日はバンコクから比較的近いアユタヤまで遺跡見物に出かけることにしました。バンコク市内からのツアーもいくつか出ているのですが、宿で聞いたり、ネットで調べたりしていると現地でトゥクトゥクを貸しきって各遺跡を巡ることもできるようです。相場は1時間200バーツとのこと。半日の滞在と考えると800バーツ程度。ツアーは1000バーツ位からあるので、ひとり旅ですと実質かかるコストはそこまで変わらないのですが、せっかくなのでその場のノリを重視できる個人手配にすることに決定。バンコク中央駅から電車に乗って出発です。
ローカル電車でアユタヤまで
電車はアユタヤまで片道1時間食事付きの特急だとおよそ400バーツ、片道2時間弱のローカル線だと15バーツ。そこは迷わずに普通車です。以前、市内のマーケットに行ったときにも感じたのですが、短距離での移動ならば地元の人のリアルな暮らしに入り込めるので断然ローカル線が面白いです。電車は途中、スラム街のような所をゆっくり抜けつつ、徐々に田園風景へと変わっていきます。ゴミの塊のようなと建物に棲み真っ黒な川で水浴びをする人々。途中、片足のないぼろ布を着た老人が、何か呟きながら僕の前にずっと座っていたのですが、こういった層が確実にいる事に対して、僕はファーストクラス~などと言いながら旅行中。ただ、今この瞬間に哀れみからお金を差し出すだけでは何も解決できないのは知っているのです。世界から貧困がなくなれば良いのに。でも、そもそもこれ以上人類が増えてしまっていいのだろうか。
トゥクトゥクとの交渉
そんなちょっと難しめのことを考えていたら電車は比較的大きな駅へと到着。周りの人達が続々と降りていきます。隣のおばちゃんに慌てて「アユタヤ?」と聞いたら頷いてくれたので、僕も電車から飛び降りました。そして駅から出た直後からトゥクトゥクの客引きが相当にウザイ。外国人と見られると、3メートル歩くごとに声を掛けられます。でも駅前でなく渡し船で川の対岸にある街に出た方が交渉がしやすいという情報を得ていたので、ここでの客引きは完全に無視。しばらく歩いていき街並みが見えて来た所にいた運ちゃんと交渉開始です。
「貸切で寺を見てまわりたいんだけど」「それならばこういうところに行けるよ」とポストカードを何枚か差し出すおっちゃん。さすがに手馴れてます。僕も遺跡の写真を見てテンションが上がります。「それで、いくら?」「一時間、200バーツって決まってる」そこで、僕は時計を差し出して「5時までで600バーツでどう?」ちなみに、このとき1時15分。つまり、45分おまけしてくれって事ですね。そして、そんなやりとりをしていると他のトゥクトゥクが周りにやってきました。せっかくの見込み客を取られたくないのか、運ちゃんは僕を後部座席に乗るように促すと、すぐに走り出してしまいました。そして、2,3分走ったところで交渉再開。「じゃ、1時間300バーツだから」「はっ?さっき200って言ってたじゃない!?」まったく、この国のボッタクリ根性と付き合っていくのは大変です。「わかった、じゃぁ他の人のところに行くからいいよ」と座席から降りようとする僕。「ごめん、ごめん、200でいいよ」悪気もなさそうに、定価に戻されました。「ってか、5時まで600でどうよ」「うーん、OK、5時に駅に連れて行く、600。」呆気無く交渉がまとまりました。まぁ、実質20%OFFくらいなのでちょうどいい妥協点だったのかもしれませんね。
アップグレード?
そして、僕ひとりを乗せたトゥクトゥクが田舎道を走りだします。座席は簡素で硬く、屋根も単に日差しを遮るだけにあるような乗り物ですが、頬に当たる風が相変わらず心地よい。スピッツのスターゲイザーでもBGMにしたい気分。少し鼻歌を歌いながら揺られていたら、トゥクトゥクがまた不思議な場所で止まりました。トゥクトゥクの助手席から運ちゃんの奥さんが降りて、近くの乗用車に乗り込んだと思ったら、僕に対して手招きをしています。なんでも、運ちゃん曰く今日はちょっと雨が心配だから奥さんの運転する車に乗って欲しいとのこと。まぁ、曇天だったのは確かなのですが、おそらく6人乗りのトゥクトゥクに僕一人を乗せておくよりも、とりあえず私物の乗用車に乗せて、自分はさらに営業に出る方が儲かりそうだという魂胆なのでしょう。とにかく、600バーツという線は変わらないということを確認して、乗用車に乗り込むことにしました。
実際の遺跡廻りは、完全にプロの奥さん任せ。じゃぁ、今からここに行くからとポストカードを見せられ車が走りだします。5分程度走ると最初の遺跡に到着。彼女は駐車場で待っているから、見終わったら戻っておいでとのこと。これ、すごく気が楽で良かったです。たまに、某日系旅行代理店ツアーの団体さんと一緒になることがあったのですが、向こうはかなり厳密に見学時間が決められている模様。対して僕は帰りの電車のデッドラインさえ気にしていれば、あとは完全に自己裁量。しかも、暑い日差しの中を歩いて駐車場に戻ってくると、エアコンの効いたMitsubishi Lancerが待っているのです。風情という面ではトゥクトゥクに劣りますが、暑い日差しの下ではちゃんとクッションのある車の後部座席というのは至極快適。不思議なアップグレードにも感謝です。
アユタヤ雑感
そうそう、肝心の遺跡の感想ですが、実際今回のバンコク滞在で一番印象に残っている場所と行っても過言ではありません。観光客の数もそれほど多くなく落ち着いて見ることができましたし、やはりその光景そのものが完全に別世界。電車で2時間のお手軽観光にも関わらず、かなり異国気分を味わえました。強引に喩えるならば、バンコクが歴史もある近代都市であるのに対して、その隣にあるもっと古い片田舎、京都と奈良のような関係でしょうか。あとは、屋外で寝転がっている大仏を見たときには、思わず「タイガーショット」とつぶやいてしまったりとか(わかるかなぁ、このネタ)。
まただよ…
ただ、最後の最後に大きなトラップ。日もやや傾きかけた時間帯に、他に誰も観光客のいない遺跡で写真を撮っていたら、どこからともなく複数の犬の吠える声が。なんか、ものすごい勢いでこっちに向かってくるんですが。タイの野良犬に襲われるとか、マジで洒落になりません。軽く命の危険を感じながら猛ダッシュで逃げ、入り口の売店に到着。おばちゃんが追い払ってくれましたが、急いで走ってたからカメラを思い切り地面にぶつけてしまった。タイの犬にはホントに気を付けた方がいいです。奴ら基本的に紐付いてません。小さい頃に、近所の柴犬に追いかけられたとき以来のトラウマですよ。とりあえず外装に傷が付いただけで動作自体は問題ないD300が少しだけ心を落ち着かせてくれました。